「アメリカ人は日本人のように責任感を持って働かない」
「アメリカ人はいつも16時、17時には帰ってしまって残っているのはいつも日本人」
「日本人出向者ががんばっているからなんとか会社が回っている」
「アメリカ人はすぐに辞めるから引き継ぎがうまく出来ずに日本人がやるしかない」
どうでしょうか?このような声が社内で聞かれていませんか?
経験上、こういった声が聞こえてくると
出向した日本人スタッフと現地スタッフの関係が悪く、
海外現地法人の経営状態や生産性が悪化してきています!
海外赴任者が現地スタッフとうまくいっていないという相談は多くあります。
「仕事ができる人を送ったはずなのに」、「あいつは英語が堪能だから」など、期待を込めて送り出した海外赴任者は奮闘するも、上手くいかないケースが多々あります。
今回は、英語が苦手だって現地で成功する人は成功します。そんな状況を参考に海外赴任で必要なことを整理していきます。
はじめに
今度、アメリカに出向することになりました。
15年間設計担当者としてやってきましたが、今回生産工場を持つ
現地法人への出向で不安がいっぱいです。
しかも、英語は高校時代偏差値40の苦手。大丈夫でしょうか?
英語が苦手な上に日本国内ではプレイヤーとして活躍する人材が、
役職を上げてプレイングマネージャーとして海外赴任するというのは
よくある話です。
当然社長でもないので、専属通訳もいません。
そんな中でも成功を収めるための方法を教えましょう!
まず当然ですが、プレイヤーで通訳を立てられないようなプレイヤーの立場では英語が全くでは業務自体に支障は出ますので、英語はとても大切になります。英語が話せないより話せる方が有利であることはもちろんですから、できる限り英語の勉強はしてから赴任しましょうね。
ですが、プレイヤーの任務で出向される方にとっても、これから書く内容が理解できていなければ、英語が出来ても現地で十分な成功はできないでしょうし、その後現地でリーダーとしてやっていくことは難しいと思います。
これまで数十人と言う海外赴任者を見てきましたが、これらの感覚がない方に成功者はただの一人もいません。海外赴任者が現地で上手くいかないのは何も英語が話せないからではありません。
英語が話せなくても、海外赴任を成功させることは可能です。
英語が話せないから無理だとあきらめず、前向きに取り組むことで十分に成功を収めることは可能だと信じてやってみてください。
上手くいかないのは誰のせい?
再度確認します。冒頭に書いたような意見が社内で蔓延していませんか?
でもそれは大きな間違いであり、その考え方が海外現地法人の業績を下げ、現地スタッフが働かない、働く意欲がない、そして、すぐに辞めていってしまう原因のひとつであるのです。
それでは、なぜそのような悪化につながるか、大きな要因2つに分けて整理します。
文化の違い
例えばアメリカと日本のお互いの文化への理解は、実態とはかなりずれています。
情報化社会で、これだけ他国の情報が入ってくるようになり、行き来があってもまだ相手の国に対する誤解は多く存在します。
これが一番大きな要因だと思います。
例えば、お互いにどういった認識のズレがあるか整理すると、
日本人から見たアメリカ
- 労働が嫌い(神から与えられた罰)
- 仕事よりも家庭を大切にする
- 転職は良いこと
- 休みが多く、あまり働かない
- 低コンテクスト(言語化、理論化する)
- フレンドリーで誰とでも気軽に話す
- 感情表現が大げさ
- いつもステーキやハンバーガーを食べている
- 暴力的、銃社会
アメリカ人から見た日本
- 働くのが好き(上司に仕える)
- 家庭よりも仕事を大切にする
- 長く勤めあげることが良いこと
- 遅くまでよく働き、休みを取らない
- 高コンテクスト(言わなくても察する)
- 奥ゆかしく出しゃばらない
- 何を考えているか分かりにくい
- 忍者がいる
- 平和的、おもてなし
なんとなくこんな感じですが、よく聞くところなのでご存知の方も多いかと思います。これは事実のほんの一部を切り取って、脚色したニュースや映画、書籍の情報の影響も多分に受けています。こういった認識のズレが相手の印象をすり替えてしまうところもあります。
それではこういったズレが実際にどう影響するのか整理していきましょう。
向上心は日本人に比べてないの?
実際には、アメリカのほうが祝日は少ないですし、間接部門の残業もなく、与えられた任務の遂行結果で判断されますから、日本のようにダラダラ働いて残業代を稼ごうという意識も少なく、会議なども短く終わらせようという意識も強いです。
そして、どんどんスキルアップして収入を増やしていきたいと思うアメリカ人は、自分に与えられた仕事は早く終わらせてから、他の仕事を手伝って経験を積んだり、勉強に充てたりしながら成長しようとしています。
日本以上に成果主義で競争社会ですし、終身雇用でもありませんから、日本人よりも努力し、自分の努力はしっかりとアピールする印象があります。
そのため、転職も多くなっているという背景もありますし、そういった新たなスキルを得ていく過程で収入が上がるという仕組みになっています。
向上心というところでは、日本では年功序列の会社もまだまだ多く、ベテランになるほど危機感を持って働いていないという経営者の声も多くなってきましたし、40代以上の早期退職を募って入れ替えを進める動きも活発になってきました。
現地での肌感覚でも日本よりも海外のスタッフの方が向上心は強い方が多いと感じます。
理由としては、先にあげたように結果が自分の評価となり、収入に差として現れるからでしょう。
日本がダメ、アメリカがダメなどと言うことではなく、背景として文化や政治、政策など様々な要因が影響していることを客観的に理解することが大切です。
愛社精神って持っているの?
アメリカ人にも、愛社精神をもった社員はたくさんいます。それこそ、チームプレイや地元愛の表現の強さで言ったらアメリカのほうが強いかもしれません。
よく海外の写真や動画、映画などでもバスケットボールやベースボールのTシャツや帽子をかぶったおじさんを見かけませんか?
あのように同じユニフォームを着て、一体感を持って働いたり、何か行うことが好きな文化があります。日本の職服(作業服)をアメリカ現地でも着て、その姿で近くのガソリンスタンドに立ち寄った際、知らないおじさんたちが、「その服は会社のユニフォームか?そんなしっかりしたユニフォームをくれるのか?うらやましいな!」と、話しかけてくらいユニフォーム好きです。
現地で働くスタッフも、「お金を出してもいいから日本の職服が着たい」と言うので、クリスマスギフトとして日本から取り寄せたこともあります。現地法人でもユニフォームの提供はしましたが、ポロシャツやワイシャツなどに会社のロゴを刺繍したものなど、簡易的なものが多かったので、日本の作業服はうらやましかったようです。
日本では、極力着たくないという声が多いですから、愛社精神を表現するという意味ではアメリカ人のほうが強いと思います。ですから、「早く帰る」、「すぐに辞める」ということがそのまま愛社精神が足りないということではないことを理解しなければなりません。
自分から進んで仕事をしない?
基本的には海外はトップダウン型の業務を行います。
日本のQCサークルのようなボトムアップ型の業務をさせたいのであれば、そういった活動を推奨するという指示を出す必要があります。ですが、日本人の監督者は”待ちの姿勢”で、現場から意見や活動が上がってくるのを待っています。
当然、待っても待っても現場からはそのような報告は上がりません。指示をもらってないのですから、「やってはいけないこと」として取り組まないのです。
勝手に現場で考えて失敗した場合に責任を取るのは上司ですから、日本のように「言わなくても分かってよ」と、いう考え方自体を悪いことだと判断するのです。
このように活動するきっかけもないので、やることが少ない。やることが終われば当然帰りますし、あまりにも仕事がなければスキルアップも望めませんから辞めていきます。監督者は、「やっぱりやる気がないんだ」と評価し、話し合うこともなく日本の本社へ対して、そのように愚痴をこぼし、報告をしてしまいます。
QC活動が海外ではどうなのか、こちらの記事でも触れていますので参考にどうぞ⇩
日本のものづくりは世界一?
トヨタ生産方式など世界的にも評価された素晴らしいものづくりの仕組みが日本にはあります。そして、本社との連携をとるためにも日本に合わせた仕組みを導入することも少なくありません。
なぜならば、アメリカ人が仕事をしない(と思っている)ので、日本人が仕事をするしかない状況ですが、アメリカのやり方では仕事が回らない(回せない)ですし、日本で成功した自分のやり方で仕事を回そうとするのは当然のことです。
そうすると、会社自体が日本式の仕組みへと染まっていきます。
ですが、その日本式の進め方は、日本では当たり前の常識ですが、アメリカ人には理解しにくい独特の進め方です。アメリカにはアメリカの文化がありますから、自社だけ日本式でもサプライチェーンで見た時には全然機能してません。
結果、アメリカ人の従業員は仕事の仕方が分からず、ますます自分たちでは仕事を進めることが出来なくなっていくのです。
日本式が世界一なのは、日本という土壌に置いての話が前提であって、海外現地ですべて日本式で行おうというのは無理が生じます。
ここまでは、外部要因にあたる文化の違いに起因するところ。
知っているようで知らない文化の話でした。
どうしても自身の文化での判断基準が正しいと思い、思い通りに
いかないことに対してイライラしてしまいますよね?
たしかに、日本での蕎麦をすする時の音を海外では
行儀が悪いと嫌そうにするとか、自国のマナーと異国のマナーが
違うことで不快感を感じるような感じですかね?
そうです。そこから、不満につながってしまうのですね。
次は、優秀なプレイヤーだったから出向するという人が多いと思いますが、
日本以外の文化では通用しない手法もあることを受け入れられるか、
これが大事になる、そんな内部要因の話になります。
赴任者自身の意識
文化への理解以外にもう一つ大きな要素が赴任者自身の意識です。
慣れない文化の土地で、日本からは「何やってるんだ」と言われることもあるでしょうし、なかなか成果も出ない間はとても辛い状況になります。
日系企業が十数社あり、日本人赴任者も100人規模でいる地域などで交流会をしてみても、どこの会社も同じような状況です。『OKY(お前が きて やってみろ)』という造語があったくらい、日本の親会社から言われる小言に辟易している状況がありました。
そんな辛い状況にあって、どのような立ち位置を意識してそこにいるのか、それによっても周りの環境は大きく変わり、成果に大きく影響する原因となります。
現地のスタッフと会話をしてますか?
文化のところでの「仕事を与えていない」にも関連しますが、高コンテクストの日本人は、言わなくても察してほしいという考え方をします。
日本人上司の『おい!頼むぞ!』には、『ここまでの仕事を任せるぞ』、『終わったら報告してくれよ』、『ミスに気を付けて注意深くやれよ』など、仕事を頼んだ背景や条件など含めた様々な意味合いがその短い言葉の中に含まれています。
逆にアメリカ人は言わなければ分からないという、低コンテクスト文化を持ちます。
職人技を暗黙知として個人に蓄え、OJTを通じて伝承していく傾向の強い日本人に対して、形式知化して標準化することが得意なアメリカ人の仕事の進め方の違いを理解するためにもお互いの思いや考えを交換し、理解を深めることが必要になります。
英語が苦手という方も多く、職場でも日本人だけで固まっていてアメリカ人と会話しないという方もいらっしゃいますが、それではなかなかお互いのことを知ることができません。
何も言葉だけが思いを伝えるツールではありません。同じ職場で働く者ですから、共通の考え方や認識を持つ部分も多くあります。ジェスチャーや表情、絵を書いたり、実際にやって見せたり、いくらでもコミュニケーションの方法はありますが、英語が話せないからと格好悪さや引け目を感じていませんか?
英語が話せなくても結果が出ることを知り、前向きに積極的にコミュニケーションを図ることが大切です。
どこの従業員ですか?
日本から一時的に海外に出て、一定期間だけいるのは確かだと思いますし、それは現地スタッフも十分に理解をしていますが、それでは現地スタッフからは十分な信頼は得られません。
現地スタッフの信頼がなければ、マネジメントとして不十分だと評価され、協力が得られず、下手をすると利用されていると感じるスタッフも出てくるかもしれません。
実際、辞めていく多くの現地スタッフの話を聞くと、新しい日本人スタッフのマネジメントにがっかりした、信用できないなどの声を多く聞きましたが、詳しく理由を聞くと下記のような回答が多く寄せられました。
- 日本人だけで集まってコソコソと話をしている
- 現地スタッフの悪口を言っているのを聞いた
- 日本への報告では、自分たちだけががんばっていると報告
- 対応が冷たく、仲間だと思えない
- 早く帰りたい、この国が嫌だと言う
逆の立場なら、『早く国へ帰れ』と思いますよね?
赴任期間は、その現地の会社の一員であることを強く意識し、そこの従業員の生活を守ることを意識して取り組む姿勢がとても大切です。
日本の指示に反発しろとは言いませんが、現地のためにならないことには毅然とした姿勢で対面し、きちんと現地の従業員の力になるという、一本筋の通った理念を持つことで、信頼を得られ、協力を得られるようになります。
役割ってなんですか?
海外赴任者は現地のマネージャーやディレクターといった監督職に就くことが多いです。海外におけるマネージャーとは、組織を統括し、指示を出していく監督者です。
日本ではその組織で有能なスペシャリストが課長などのポジションで監督する場合が多いですが、それはリーダーであってマネージャーではありませんから、現地スタッフからもマネージャーなのに管理もしないでプレイヤーしてると評価されます。
また、日本の役職よりも1ランク、2ランク上の役職を任されるケースも多くありますので、教えられたり勉強したり、これまで経験のない役職で赴任することでもこのような状況に陥りやすくなります。
そういったところを理解しないで赴任前の研修を行わないことにも問題があります。
逆に、赴任者が帰任を期に会社を去るケースも問題として多くありますが、これも逆のパターンで、現地で死に物狂いでマネジメントを覚えて帰ってきてみたら、またプレイヤーに逆戻り。
これでは、全然自分の学びを活かすことが出来ませんから、新たなステージを求めて辞めてしまいます。
きちんと人事は役職に求められている役割を理解し、それに応じた教育や経験、そしてスキルアップを考えた計画を立てることが必要です。
ちなみに、リーダーシップは大事ですが、マネージャーとリーダーには根本的に求められていることが違いますが、そこは以前の記事でもまとめていますので、参考にしてください。
活動成果は恒久的に現地に残りますか?
赴任者の多くは、日本で実績があり頭一つ周囲から抜きん出た能力を有しているかと思います。ですから、意外と海外に行ってもこれまでのやり方である一定程度の結果は出せるでしょう。
しかし、あくまでも一人での努力でなんとかなる成果は知れています。赴任者がいる間は成果が出ていたとしても、赴任者が日本に帰ったら状態が元に戻ってしまうようでは意味がありません。
そのような状態では、常に交代で日本から赴任者がいなければ仕事が回りませんし、事業が拡大するほど、大勢の優秀な人員を送り出す必要がでてきます。
当然、そうなれば日本側が手薄になるなどの問題も出ますから、企業にとって良いことはありません。
海外赴任者は自分がいる間だけの目先の利益だけではなく、その先長い目で見た時に、現地のスタッフが稼ぐ力を持てるように、会社を作り上げることが大切です。
これらの要素が導く結果は?
このように、現地スタッフと出向者との間の協力が得られず、出向者ばかりが頑張っていますという状況は、会社全体にとって、とても不幸な結果へとつながります。
赴任者が多く集まるような街では、日系企業の中での集まりなども開かれ、各社の抱える課題についての意見交流なども行ってきました。
業種も様々でしたし、誰もが知る大手企業から中堅企業、中小企業規模の企業もありました。
ですが、どこでも抱える問題は一緒です。
- 日本人ばかりが苦労している。
- 出向者が戻ると状態が戻る。
- 現地スタッフの入れ替わりが激しい。
結果として、生産性が悪く土日も稼働しなければ追いつかないが、現地スタッフを休みなく働かせるわけにはいかず、日本人出向者が毎日仕事をしている。
このように悪循環により、どうしようもなく不幸な状態に陥ってしまうのですが、そうなると、もう立て直す方向性も見付けられないまま足元だけをみて、「ただがんばる」ということにもなりかねず、さらにどんどん悪循環して、成果は落ちていきますから注意が必要です。
どうしても英語や技術といったところに頼りがちですが、日本人が知らない異国の文化の中で短期間に日本と同等以上の成果を出すことなど不可能です。
では、どうすべきか?
これまで書いてきたように、現地のスタッフの信頼を得て、現地のスタッフが気持ちよく働けて、成果が出せる環境を作れるようにすることです。
人と人が信頼するのに必要なことが、相手を理解し、相手の立場に立つことです。
些細なことでも状況は簡単に変わります。
言葉や技術ではなく、まずはこれら2点を変えるだけで劇的に成果の方向性が変わるでしょう。
国が違う、肌の色が違うなど関係なく、同じ職場で働く仲間だという意識が大切です。