前回記事では、VA活動とVE活動の定義、VAの注意点といったところを整理してきましたが、今回は、VEの基本原則と実施手順といったところの整理となります。
前回記事はこちら⇩
VEについては、”公益社団法人 日本バリューエンジニアリング協会”が基本原則や実施手順を示しています。
今回、こちらの協会の示す内容を参考にしながら、実務に沿った形で整理をしています。
VEの基本原則
価値ある製品やサービスを追求する活動を正しい方向に誘導するための行動指針です。
使用者優先の原則:顧客要求から外れたものにならないように改善の照準を合わせる
機能本位の原則:Why-How-Whatの視点で疑問を大事にし、機能本位で考えること
想像による変更の原則:現状や固定観念にとらwれず、新しいアイデアを批判しないこと
チーム・デザインの原則:各分野の専門家によるCFT(クロスファンクショナルチーム)を組織すること
価値向上の原則:V=F/Cの概念式に基づいて、価値の向上を図ること
VEの実施手順
VE活動により、効果的に問題解決するための基本ステップです。
1.機能定義 | VE対象の情報収集 | VEを行う製品やサービスの情報を 関係者で収集、共有していく |
機能の定義 | 名詞と動詞の二語を使って、 「~を~する」と簡潔に表現し、 VE対象の機能を抽出していく | |
機能の整理 | 抽出した機能を「目的→手段」の 関係で機能系統図を使って整理 | |
2.機能評価 | 機能別コスト分析 | 各機能の達成に費やされている コストを明確にしていく |
機能の評価 | 各機能に価値を持たせる上で 基準となるコストを設定する | |
対象分野の選定 | 改善を推進していく機能分野の 優先順位を決める | |
3.代替案作成 | アイデア構想 | 機能の整理で抽出した手段の 代替や新技術への置き換えなど アイデアを集める |
概略評価 | 技術面とコスト面から可能性を 確認し、どうしても実現しそうに ないアイデアのみ落とす | |
具体化 | 残ったアイデアを多角的な視点で 検討し、練り上げていく | |
詳細評価 | 採用を考えるアイデアの安全性や 機能性、経済性などを最終評価 |
具体的な例
それでは、オーブントースターで簡単に流れを追ってみます。
VE対象の情報収集では、これからVEの検討を行うオーブントースターの製品、品番、名称、売価や原価、どこの工場で製造されているかなどの情報を活動メンバー間で共有することから始めます。
なんとなくでもイメージがあると分かりやすいと思いますので、今回例として挙げたオーブントースターのイメージを貼っておきます。
このようなシンプルな機能で3,000円でおつりがくるようなお手頃なオーブントースターを使い、何となくの流れを追います。
機能の定義+機能の整理

「~を~する」の形でいくつもの機能を抽出し、それぞれの機能について機能系統図を用いて機能の掘り下げを行っていきます。
ここでは、”パンを焼く”という機能を抽出し、それに対しての掘り下げをしています。
実際には、最後のセンサーの位置や仕様、ゼンマイの仕様はもっと細かく、太さや使用領域などを特定していくわけですが、今回は流れを追うだけなので簡単に”適切な仕様にする”とひとくくりにしています。
この時の注意点として、
- 1つのマスには、”機能の抽出”に従い「~を~する」の形で記入する
- 左側のマスが”目的”→右側のマスが”手段”とつながるような形で掘り下げる
- 1つのマスに2つ以上の手段を記入しない
- 具体的に記入する
- 自分たちの力が及ぶ範囲で掘り下げる
以前の記事で、トヨタ流のなぜなぜ分析を基にした、要因分析で行った手法とも一緒ですので、そちらも参考にしてみてください。
QCサークルやJISQ9024など、一般的には要因分析では連関図法を用いるようにまとめられているのですが、なぜなぜ分析(要因分析の手法)では系統図法を使用しています。
これは、ここで説明するVE活動などと共通する考え方で、その他の問題分析を進められるように手法をまとめるという意味合いもあり、系統図法を使用するようにしています。
色々な手法を知っているというのも武器ですが、ひとつの手法を深く掘り下げるというのも強力な武器となります。
機能別コスト分析
細かな機能を抽出したら、それぞれの機能の価値に対してコスト分析をしていきます。

コストで評価する理由は、判断の基準を定量的に測れるようにするためです。
例えば、”センサーの位置を適切に設定する”ために少し加工が必要となり、それに50円のコストがかかるとすると、その機能には50円の価値があるというような具合で、その機能の有無によって、どれだけのコストがかかっているかを整理していきます。
機能の評価

そして、他社比較や顧客要望を参考にして、それぞれの機能に求められる基準コストを設定し、自社製品の分析コストと比較を行うことで、各機能に費やしているコストの評価を進めていきます。
この場合、パンを焼くという機能に対して、顧客は1台のオーブントースターに180円のコストで作って欲しいと要望されていますが、実際には200円かかってしまっており、顧客要望に対して20円未達の状態だと評価をしました。
対象分野の選定
パンを焼くという機能については、20円劣っている状態だったわけですが、他の機能はどのような結果だったかを横並びで見ていきます。

すると、他の機能は顧客要望を達成しており、競争力も十分にあることが評価されました。
ですから、VEとして取り組むべきは、要望未達のパンを焼くという機能が選定されます。
このような流れで活動のポイントを絞っていきますが、他社が出来ているのに自社が出来ていないことであったり、顧客要望を満足していない部分への改善とすることが望ましいです。
代替案の作成
このように、適切な活動ポイントを絞り込むことで、経営資源を投資するにあたってのムダを削減することにつながります。
そして、ここから問題や課題といった現状とのギャップを埋める活動の計画を立て、PDCAサイクルを回しながら改善活動をすすめるというステージに入っていきます。
ここでの活動はPDCAサイクルの内容ともリンクしますので、そちらを参考にご覧ください。
VE活動で価値を上げる方法
VE活動で考える、製品やサービスの価値Vは、それが果たすべき機能FをそのためにかけるコストCで除した関係で表されます。

ですから、この左辺の価値Vを上げるためには
①機能を維持⇨して、コストを低減⇩する
②機能を向上⇧して、コストを維持⇨する
③機能を向上⇧して、コストを低減⇩する
④コストは増加⇧するが、それ以上に機能を向上⇧⇧する
の4つの方法が考えられます。
このとき、「機能は低下⇩するが、それ以上にコストが低減⇩⇩する」と、いうパターンでも左辺の価値Vは増加しますが、機能が低下することからコストカットやダウンサイジングなどの別の製品やサービスの開発と定義されるために、ここには含みません。
そして、VE活動で考えるコストは、”製品の開発”~”廃棄”までの製品の「総ライフサイクルコスト」で試算することが必要とされています。
最後に
2回に分けて、VAとVEの活動の定義や流れを整理してきましたが、VAとVEの考え方は少しずつ違いがあり、VA/VE活動などと一緒に呼ぶことも多いかと思いますが、活動自体は一緒にしてしまってはいけません。
VAで抽出したアイデアをVEに活かす、VEでの活動成果をVAに活かすというような、連携をさせる意味合いではとても有効です。
しかし、VA活動での対策を考える場面でVEの考え方をしてしまってはいけませんし、VE活動の中でVA手法だけでイメージしていてはアイデアが広がりません。
きちんとメンバー全員が活動の目的を理解し、同じ方向を向いて進めるためにも、VAとVEの違いを理解し、基本的な流れを頭の中にイメージとして持っておくことが必要になります。